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「雨…」―中島みゆき

   そうよだましたのは私
   心こわれたのはあなた
   どうせあなたもうそつきな
   旅人と思ってたのよ

嘘吐(つ)きは泥棒の始まりなんやでぇ〜と、子供の頃に、友達に向かって、叫んだことがありませんでしたか。
あっ…、叫ばれたほう…、悪い子のほうでしたか。(笑)

平然と嘘を吐(つ)くような者は、善悪を峻別する感覚も薄れ、盗みも悪いことと思わなくなってしまう、という意味では、その通りです。

もっとも、正直、真実は必ず善であり、嘘、偽りは必ず悪という、勧善懲悪の思想がその前提となります。

しかし、一方では、嘘も方便という言葉があります。
これは大乗仏教の重要経典の一つ、法華経の中で説かれる仏教説話が由来ですが、時と場合によっては、嘘も手段として必要であるとされます。
この言葉が、人を救済する宗教の中から生まれたということが、嘘の本質、実相をあらわすようで興味深いですね。

落葉さかんな蔦(つた)の葉を病室から眺め、あの最後の葉が落ちたら私は死ぬと言っている病人のために、老画家は本物そっくりの蔦の葉の絵を描きます。
そのどんな風雨にも負けない、落ちない最後の一葉に励まされて、病人は快方に向かいます。
無理して描いた老画家のいのちと引き換えるように…。

アメリカの短編小説の名手、O・ヘンリーの有名な短編「最後の一葉」のストーリーですが、最後の一葉も、考えてみれば、人をだます嘘の話ですね…しかし、そのことで、やはり人が救われます。

英語でも、The end justifies the means. という表現があり、直訳すれば、結果は手段を正当化する、というものですが、意訳すれば、嘘も方便となります。

でも、やはり、嘘を吐くのは良くないこと。
嘘をつかずにこしたことはないでしょう。

えっ、マスターは、嘘を吐いたことがないのかって?。
ええ、ぼくは、嘘と坊主の髪はゆったことがないです。
(「結う」と「言う」の洒落(しゃれ)。毛はない坊主の髪を結えないのと同じように、自分は嘘を吐かないということ。…わざわざ解説してしもた(^^ゞ)

(・・)シーン   …ごめんなさい。(*_ _)

嘘をゆうたことがない、といいましたが、閻魔様に舌を抜かれるのはやはり怖いので、正直に、告白します。(笑)

ぼくは、嘘は、今までに、ひとつだけ吐いたことがあります。

…嘘を吐いたことがない…というのが、唯一のウソです。(笑)

   裏切られた思い出に
   いつかおぼえた氷芝居
   さみしがりやのあなたには
   それが一番の仕打ちだった

人が人の世の中で生きていくのに、嘘は時として、必要です。
それが潤滑油として働くからです。

  いやあ、○○君の作った企画書、最高の出来だよ。
  部長に是非読んでもらおう。
    →単に、前任の者が作った企画書の時点修正やないか。
     こんなん、部長に出せるか、即シュレッダー行きや。

  あら〜あなたのバッグ、いいわねぇ、高かったでしょ。
  とっても、あなたに、よく似合うわよ。
    →特売チラシに入ってた、バーゲンのB級品じゃない。
      それに、あんたがもてば、本物も偽モノに見えるわ。

  お母さまの作ってくださる煮物、どうしてこんなに美味しいの。
  子供たちも好物ですから、また持っていらっしゃって。
    →どうしたら、こんなに真っ黒で塩辛いの作れるのよ。
     喜んで食べるのは、味に慣れたあんたの子供だけよ。

  ○○子さんは、綺麗好きねぇ。いつも、お部屋が片付いて。
  観葉植物も、ほんと、手入れが行き届いて元気だし。
    →押入れの中に、押し込んであるの知ってるわよ。
     観葉植物だって、すぐ枯らして、すぐ買い換えてるし。

→印は、心の中のつぶやき、ささやき、叫び。
そして、決して、口に出してはいけない真実。(笑)
建前と本音の使い分け。
職場で、家庭で、円満に過ごすためには…です。(笑)

   冷たい雨、雨、雨、雨、いまさら
   あなたがこんなに愛しい
   冷たい雨、雨、雨、雨、私を
   あの頃に連れて戻って

嘘をひとつ吐けば、またひとつ嘘吐かなければならない。
そして、その嘘が、またひとつの嘘につながる。
嘘は、降りしきる雨粒のように、次から次へと落ちていく。

そして、その嘘が降りしきる中で、本音がポトリと…。
雨だれの中にまぎれて落ちていく。

   生まれてはじめて逢う人が
   あなたなら良かったけれど
   裏切られすぎて私は
   いまさら素顔になれない

そして、いちばん、嘘でだまさないといけないのは…自分。
氷芝居を演じている…自分。
舞台の上では、仮面を脱ぐこと許されないのです。
仮面を脱ぐときは、舞台の上から消えるときなのですから。

   こわれた心をかかえて
   あなたはやさしい人に出逢う
   幸せになってゆくなら
   なんにも言えやしないけど

いつまでも一緒でいたいという嘘。
いつまでも一緒にいられないという嘘。

そして、ただひとつの真実。
相手に、幸せになってほしいということ。

心のほんとうの叫びではない。
しかし、それは、必ず、嘘でもない…。

   冷たい雨、雨、雨、雨、いまさら
   あなたがこんなに愛しい
   冷たい雨、雨、雨、雨、私を
   あの頃に連れて戻って


「雨」というタイトルの曲は多いのですが、この歌のタイトルは、「雨」のあとに、「…」があって、「雨…」というのが正しい表記です。
小柳ルミ子さんに提供して、ヒットし、その後も多くの女性シンガーがカバーしている曲です。
中島みゆきさんご自身も、「おかえりなさい」というアルバムで歌われており、うらみ、なげき、ためいき…では、やはり、本家なみ節(なかじまみゆき節)の正調がいいですね。(笑)

(初稿2003.7)


雨…

作詞/作曲 中島みゆき

そうよだましたのは私
心こわれたのはあなた
どうせあなたもうそつきな
旅人と思ってたのよ

裏切られた思い出に
いつかおぼえた氷芝居
さみしがりやのあなたには
それが一番の仕打ちだった
冷たい雨、雨、雨、雨、いまさら
あなたがこんなに愛しい
冷たい雨、雨、雨、雨、私を
あの頃に連れて戻って

生まれてはじめて逢う人が
あなたなら良かったけれど
裏切られすぎて私は
いまさら素顔になれない

裏切られた思い出に
いつかおぼえた氷芝居
さみしがりやのあなたには
それが一番の仕打ちだった
冷たい雨、雨、雨、雨、いまさら
あなたがこんなに愛しい
冷たい雨、雨、雨、雨、私を
あの頃に連れて戻って

こわれた心をかかえて
あなたはやさしい人に出逢う
幸せになってゆくなら
なんにも言えやしないけど

裏切られた思い出に
いつかおぼえた氷芝居
さみしがりやのあなたには
それが一番の仕打ちだった
冷たい雨、雨、雨、雨、いまさら
あなたがこんなに愛しい
冷たい雨、雨、雨、雨、私を
あの頃に連れて戻って

1978年(昭和53年)
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