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「交響楽(シンフォニー)」―グレープ

   煙草をくわえたら 貴方のことを
   突然思い出したから
   涙の落ちる前に 故郷へ帰ろう

「わたし…、煙草になりたいな…。」
デートも終わりの時刻に近づいて、二人して入った喫茶店で、ひとしきり、取り留めの無いおしゃべりを交わしたあとに、彼女はぽつりとつぶやいた。
「えっ?…。…なんの話し?…。」
煙草に火を点けながら、ぼんやりと彼女の話を聞いていた彼は、すこし戸惑ったような顔つきで尋ねた。

「だから…、わたし…、煙草になりたいな…。」
首をかしげた彼に、彼女は、溜め息まじりに答えた。
「だって…、煙草になれたら…、いつも、あなたの胸のポケットの中にいて、いつも、あなたに、かまってもらえるもの…。」
彼は、吐き出した紫煙のゆくえを、ただ見つめていた。
彼女も、その紫煙のゆくえを、じっと見つめていた。
二人は永過ぎた春の恋の行方を、その中に見ていた…。

我が国においても、公共空間での禁煙スペースの拡大など、ようやく禁煙化の流れが加速し、定着しつつあり、紫煙を燻(くゆ)らす…こんな言葉も、やがて消えていく運命でしょうね。
一日二箱以上を吸うヘビースモーカーですから、時のながれとはいえ、なんとなく住みづらい世の中になった気がします。(笑)

えっ、そんな話より、上の物語の続きを!…ですか。(笑)

…しゃあないな、で…、その続きは…、…人の縁とは〜♪、不思議なもので〜♪、そんな君から、別れの言葉〜♪ って、おいおい、いつのまにか歌が違ってるやんか。(笑)   (さだまさし「縁切寺」)
 
愛煙家だけに、人をケムに巻くのが好きなもので〜♪(笑)

   町の居酒屋の バイオリン弾きや
   似顔絵描きの友達も
   今はもういない 古い町へ

さすがに町の居酒屋のバイオリン弾きや、似顔絵描きの友達はいませんでしたが、ディスカウントストアでバイトしながら、ライブハウスで歌っていた友達や、芸大の学資を得るために、ペンキ屋で看板を描いていた友達ならいました。

ひたすらに、いつまでも自分の夢を追いかけている、そんな友達がまぶしく見えて、うらやましくもあったのですが、残念ながら、その後、彼らの姿を音楽や芸術の世界で見かけたと、仄聞(そくぶん)したこともありません。

   今でもそこに あなたがいたら
   僕は何ていうだろう
   あなたに逢うには 使い残した時間が
   あまりに軽すぎて
   悔やんではいないよ 想いはつのっても
   そうさ 昔は昔

人間には、おおよそ24時間周期で繰り返される身体的変化があり、これらの時間的秩序は、体内時計(生物時計)により規律されていると考えられますが、心が認識する時間というものは、これとは異なって、さらに複雑な様相を見せます。

心の中で認識されるところの時間というものは、決して、均一に流れていくものではなく、時として、速くも遅くも、そして、時として、重くも軽くも流れていくものなのです。

そんな複雑な時のながれの中で、人は、やすらぎ、悩み、苦しみ、喜び、悲しみ、生きていかなければならないのです。

時は、決して、とどまりはしません。
たえまなく、流れていき、ふたたび戻ることはありません。
でも、だからこそ、そんなかけがえのない時が、いとおしいのです。

   今から思えば 貴方がワーグナーの
   交響楽を聞きはじめたのが
   二人が別れてゆく 兆しになった

リヒャルト・ワーグナー(Wilhelm Richard Wagner)は、「さまよえるオランダ人」「タンホイザー」「ローエングリン」「ニーベルングの指輪」など、ドイツオペラ(歌劇)を深化させた楽劇というジャンルを創造し、後期ロマン派の作曲家というよりは、音楽を中心とした19世紀ドイツの総合的な芸術家です。
ワーグナーを信奉する音楽家たちのことを、ワグネリアンと呼ぶほど、現代音楽に大きな影響を与えました。

   何故ならそれから あなたは次第に
   飾ることを覚えたから
   確かに美しくなったけれど

交響曲(シンフォニー)は、18世紀以来、管弦楽のためにのソナタの形式による器楽曲のことで、ハイドン・モーツァルト・ベートーベンらにより確立され、通常、四つの楽章からなり、調性・楽想のうえで全体の統一が図られています。
交響曲は、全体的な調和のもとで、ピアノやバイオリンの名手を欠いても、音楽演奏を成立させる特徴を持ちます。

一方、同じように全体的には、管弦楽によって演奏されるものの、ピアノやバイオリンの独奏楽器を際出せるのが特徴の協奏曲(コンチェルト)には、当然、ピアノやバイオリンのソリスト、名手が必要となってきます。

なんか、難しい話をしてしまいました。
自分でも理解してないのに。(笑)

クラッシック、まして、ワーグナーなんて、今まで、聞いたこともないという人も多いかもしれません。
でも、楽劇「ローエングリン」の第三幕での登場人物、エルザ(女)と、ローエングリン(男・騎士)が結婚するのを祝う曲は、おそらく皆さんも、知っておられることでしょう。
つまりは、ワーグナーの結婚行進曲です。

結婚行進曲には、「パ・パ・パ・パーン、パ・パ・パ・パーン」という感じのメンデルスゾーンの結婚行進曲も有名ですが、ワーグナーの結婚行進曲の方は、「チャン・チャカ・チャン、チャン・チャカ・チャン」という感じの結婚行進曲です。
この説明だけで、二つの行進曲を、思い浮かべることができた方は、多分、マスターと同じ音楽センスを持っています。(笑)

いずれにしろ、クラッシック、ジャズ、ロック、ポップス、フォーク、演歌などの音楽の各ジャンルの好みというのは、やはり、人の感性に依拠するものですから、この好みが変化する時は、やはり、人の感性、価値観までが変化、変容していく時なのです。

   見栄えのしないおもちゃに飽きた
   あなたがいけない訳じゃない
   新しい風に その身をまかせ
   子供が大人になっただけ

いつまでも、その場にたたずんでいても、時は、けっして立ち止まってはくれません。
追い風であれ、向かい風であれ、新しい風が吹き始めたら、やはり、その風にしたがって、歩いていかなければなりません。

   悔やんではいないよ 想いはつのっても
   そうさ 昔は昔
   そうさ 昔は昔

そう…、この音楽館のコンセプトでもありますが、たまには、「あの頃」という名の駅で下りて、「昔通り」を歩くのもいいでしょう。

でも、忘れてはいけないのは、あなたは、決して、昔に生きているのではなく、今を生きているのです。

想いをつのらせ、ひとしきり、歩いたら…。

そうさ、昔は昔、…そう思いなおして、今に戻ってきてください。


「交響楽(シンフォニー))は、1975年発売の「グレープ」のセカンドアルバム「せせらぎ」に収録されています。

ねぇ、また巨人が負けたってさぁ、高田の背番号も知らないくせに♪〜という、シングルカットでヒットした、「朝刊」のB面にあって、さだファンの隠れた名曲です。

(初稿2003.3 未改訂)


交響楽(シンフォニー)

作詞/作曲 さだまさし

煙草をくわえたら 貴方のことを
突然思い出したから
涙の落ちる前に 故郷へ帰ろう
町の居酒屋の バイオリン弾きや
似顔絵描きの友達も
今はもういない 古い町へ

今でもそこに あなたがいたら
僕は何ていうだろう
あなたに逢うには 使い残した時間が
あまりに軽すぎて
悔やんではいないよ 想いはつのっても
そうさ 昔は昔

今から思えば 貴方がワーグナーの
交響楽を聞きはじめたのが
二人が別れてゆく 兆しになった
何故ならそれから あなたは次第に
飾ることを覚えたから
確かに美しくなったけれど

見栄えのしないおもちゃに飽きた
あなたがいけない訳じゃない
新しい風に その身をまかせ
子供が大人になっただけ
悔やんではいないよ 想いはつのっても
そうさ 昔は昔
そうさ 昔は昔

1975年(昭和50年)
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