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「追伸」―グレープ

追伸は、手紙の本文を書き終えたあとで、書き忘れた文章などを、末尾に書き足すときに使います。

本来は、本文を書き直すほどでもない些細なことを、書き足す程度のものを言うのですが、ときとして、この追伸で、あらためて、手紙の趣旨や本音を告げる手法としても使われます。

行間に見え隠れさせた文字を…、書いては消してとうとう書けなかった文字を…、追伸に忍ばせて…。

…だから、わずか数行の文字列が、ほんとはその手紙のすべてを表現しているときもあるのです。

   撫子の花が咲きました
   芙蓉の花は枯れたけど

追伸!

えっ、撫子?なでこって、誰のことやねん?
ぼくは知らんで、そんな子、なん組の子やのん。
そりゃ、ぼくが気が多いちゅうのは認めるわ。
AB型やし。
でもな、撫子って子は、ぜったい知らへんで。
とぼけてるんちゃうで。
ぜんぜん、記憶にあれへんねん。

あっ、せや、このまえ、ぼくにお尻を撫でられたぁいうて、騒いどった、となりの組の子のことか?
ほんで、お尻撫子?ってか。
ほんな、あほな。

いや、あれは、撫でたんやないで。
スカートに毛虫がついとったら、払うてあげただけやのに、勘違いしよって、あんなに騒ぎよったんや。
払うて落とした毛虫が、足元に落ちてへんかったら、痴漢の冤罪にされるとこやった。
もう、まいったわ。
撫でてもらえるようなケツかどうか、尻と顔とよう相談させてからにせぇやっていいたいわ。

うん?えっ、あれ…、ひょっとして、撫子って、なでこ、と読むんやなくて、なでしこって読むんか?
古典の時間に習った秋の七草のやつか?

萩の花 尾花 葛花 瞿麦の花 女郎花 また藤袴 朝貌の花 (はぎのはな おばな くずはな なでしこのはな おみなえし また ふじばかま あさがおのはな)って言うのは、このまえ、センコウが期末テストにぜったい出すからないうて、けっきょく、出せへんかった山上憶良とかの歌やったよな。

いや憶良いうても、輪切りにして、ねばねばにして、かっつぉ節と醤油かけて食べるやつとちゃうで。
…そら、オクラやろって、突っ込んでほしいな。
もう、夏休みボケしているバヤイちゃうで。

でもな、春の七草は食べたことあるけど、秋の七草は食べたことないから、やっぱ、よう知らんな。

追伸!

芙蓉っていうのも、ほな、花のことやな?
これは知ってるで。
芙蓉の花って、ハイビイカスを、脱色(ブリーチ)して、少し小ぶりに地味にしたみたいな花のことやろ。
韓国の国花の木槿(むくげ)にも似てるやっちゃ。

秋の七草で、朝貌の花って歌われているのが、実は、芙蓉の花のことちゃうかって言われてるんやで。
知ったかぶりするわけやないけど、やっぱ、見栄はって、知ったかぶりするのが男ちゅうもんや。

えっ、こんな知ったかぶりする男が、いずれ、ぼっかぶり亭主になるんやてか。
そりゃ、ぼっかぶりって、ゴキブリのことやけど、いくらなんでも大阪でも、ぼっかぶり亭主とは言わんやろ。

なんのはなししてんのん。
せっかく花のハナシやのに。

えっ、古典に出てくる朝貌の花って、芙蓉の花という説もあるけど、江戸時代以降、一般的に、桔梗(ききょう)の花のこととも言われてるってか。

きみも言うなぁ。
そんなこと、知ってたんかいな。
知ってて黙ってるなんて、そりゃ、桔梗やなくて、卑怯やんか。
まっ、いろんな説があるんや。
真実はひとつやない。
人の数ほど真実も正義もあるんや。
まあ言うたもん勝ちっていうとこもあるかな。

ところで、芙蓉で思い出したんやけどな、芙蓉蟹ってあるやろ。
フヨウカニちゃうで、フーヨーハイや。
かに玉、ほら、カニとか、たけのことか椎茸とか豆とか入った玉子焼きをあんかけした中華料理のことや。
あれ、なんで、芙蓉蟹って言うんか知ってる?
知らへんのか。
ほんまに知らんのか?
ほんまに知らへんねんな。
これやから、女子(おなご)は、どんならんなぁ。
でも、ぼくも、知らんけどな。

ほんで、しかも、ご飯に、芙蓉蟹を載せたら、なんで天津飯って言うんかも、わからん。
わかりやすく芙蓉蟹丼って、なんで言えへんのやろ。
まっ、ぼくらが食べる天津飯は、蟹なんか入ってのうて、カニかまぼこが入ってるからやろなんか。
世の中、わからんことが多すぎるな。
大人になったら、わかるんやろか。
わからんのに、わかった振りするんやろか。

   あなたがとても無口になった秋に
   こわくて私聞けませんでした

追伸!

ぼくが無口になったやて?
そらぁ、冗談はヨシコさんにしてや。
あっ、言うとくけど、冗談はヨシコさんちゅうのは、冗談はおよしなさいというシャレやで。
ヨシコさんて、誰やのん、って言わんといてや。
むかし付き合った子の名とちゃうで。

そらあ、あんとき、ぼくは無口やったよ。
確か、きみが三時間くらいしゃべって、ぼくが三分くらいしかしゃべってへんと思うわ。
せやから、無口やったんは認めるけど。

でもな、秋の気配を感じて無口になったわけやない。
ぼくがしゃべろうとすると、ハナシをさえぎって、きみが、のべつまくなし、しゃべりまくるんやもん。
無口になったんは、突っ込まれへんかったからや。

それでもな、ぼくは、これも試練や、忍耐なんやと思うて、黙って聞いてたんやで。
その機関銃のような勢いに、よくそんなに、一気にしゃべれるな、口疲れへんかって、でも、そんなこと、言うたら、さらに百倍くらい返ってきそうで、ぼくの方こそ、こわくて聞かれへんかったんや。

   あなたの指の白い包帯
   上手に巻いてくれたのは誰でしょう

追伸!

誰でしょうって、とぼけたらあかんがな。
決まってるやんか。
あんときに、男子はバスケしていて、ぼくはドリブル失敗して突き指してしもうて、保健委員のきみが、わざわざ保健室に連れて行ってくれたな。

今日は、えらい、なんか親切なんやなぁ、って、ちょびっと感激してたら、よう考えたら、その日女子は、跳び箱の時間で、もうすぐきみの番やったからやろ。

ついでに言うとくけど、跳び箱って、跳ぶもんや。
またがって座っているもんやないよ。
あっ、言われんでも、わかってるてか。

保健室に先生がおらへんかったから、きみがぼくの指に白い包帯を巻いてくれたんやな。
でもな、突き指したのは薬指だけやったのに、なんで、人差し指、中指と、三本まとめて、包帯で巻いてくれたんな。

お昼のお弁当が食べづろうて、結局、保健室に行って先生に巻きなおしてもらったんや。
先生は、あまりにへたくそな巻き方やったから、これ、ひとりで自分で巻いたんやろ、巻いてくれる女の子おらんかったんかて、いいはったけど、きみの名誉のため、何もいわんと、うなづいてしもうた。

ぼくって、あんがい、気配りあるやろ。
でも、こんな気い使いしとったら、将来、頭、はげそうやけねんどな。
まあ、髪の毛のはなしはやめとこか。

   たとえば今日のあなたのこと
   他の人と楽しそうに笑ってた
   あなたの声が眩しくて耳をふさぎました

追伸!

今日のうちの班ミーティングは、お笑いとテレビ文化っていう議題やったんや。
昨日やってたお笑い番組のハナシが中心で、途中から、みんなモノマネ合戦で、笑うた、笑うた。

きみの班の議題は、戦争と平和やったな。
なんで、また、そんな難しい話題を選んだんや。

憲法九条がどうのこうのって、隣でやられて、あれでも、遠慮して、みんな忍び笑いしてたんや。
きみが耳をふさいでたんは、討論に負けそうになりながら、しゃべり続けようとするからやろが。

それにしても、きみの班は、みんなしゃべりすぎ。
誰も自分のはなしばかりに一生懸命で、人のはなしはぜんぜん聞いてへんみたいやったで。
そうか、それが、戦争の原因なんかもしれんね。

   下手なくせにあなたの為に
   編みかけた白いベスト
   やはり夢でした ほどき始めましょう

追伸!

確か、そのベストちゅうのは、あれはバレンタインデーにプレゼントしてくれるっちゅうことやったね。

間に合わないからって、スーパーで買うてきたチロルチョコのセットだけもろうたね。

ほんで、ぼくがホワイトデーに、お返しのプレゼントしたときに、言うてたよな。
彼岸過ぎたら暖かくなるけど、お彼岸までには、白いベストをプレゼントするって、言うてたよな。

お彼岸って、ひょっとしたら、秋の彼岸のことやったんかな。
せやけど、どっちみち、もう間に合わんけどな。
まっ、たいしたことないけどな。
彼岸の違い、生きてるもんにとったら、せやな、ぼたもちを食べるんか、おはぎを食うんか、ってくらいの違いやろな。

ほんで編みかけたって、何センチ編んだんや。
いつも、編み棒はカバンから突き出てたけどな。
あまり使うてるとこ見た記憶ないで。

女子の更衣室を覗いてた男子を追い掛け回して、こら、目ぇついたろかぁって言うてたときに、編み棒振り回しているのは見たけどな。

ほどき始める言うても、確か、毛糸のひと玉目が、まだ終わってなかったやん。

   あなたに借りた鴎外も
   読み終えていないのに
   最後のわがままですあなたの
   肩巾教えて下さい

追伸!

鴎外の鴎の「メ」の部分は、ほんとは「品」って書くねんよって言うから、ぼくは、てっきり、きみは森鴎外のファンかなって思ってたんや。

せやから、「舞姫」は読んでへんいうから貸したんやけど、きみが読んだっていう鴎外は、みんな教科書に載ってる短編だけやってんな。

それに、上野の不忍池から、湯島の方にのぼる坂道、無縁坂は、鴎外の小説「雁」に出てくるんやでって、ぼくがいうたら、きみ、なに言うたか覚えてるか。

無縁坂は、さだまさしの歌にあるから、無縁坂はぜったいに坂の多い長崎にある坂に、ぜったいに間違いないって、強情に言い張ったよな。
その裏づけのない自信はどっからくるねん。
まっ、ええけど。

追伸!

それと、肩巾知らんで、ベストを編みかけてたんか?
ひょっとして、そのベストって腹巻のことちゃうか?
きみの好きな、フリーサイズってやつかな。
まっ、ええけどな。

   風に頼んでも無駄ですか
   振り返るのは嫌いですか
   どこにもある様な事ですか
   私 髪を切りました

追伸!

髪を切りましたって、このまえ、夏になると髪の手入れが、面倒くさいからって言うて、もうメッチャ、ショートヘアにしたやんか。

それ以上に切ったら、男子と同じように、もう五分刈りくらいの坊主頭にせんとしゃあないな。

ぼくは長い髪の方が好きやけど、でも、きみには長い髪より、短い髪の方が似合うんかもしれへんな。

追伸!

しようもないことばかり言うてしもうたな。
肝心なことはいっこもよう言わんのにな。
ごめんな、ほんま、かんにんな。

でもな、撫子の花が咲いたから、これから、本格的な秋の風が吹いてくるんやろな。

これから、ぐっと涼しくなるやろうな。

髪切って、頭から、風邪を引かんようにしいや。

それにいくら短く髪を切ったとしても、また、いつのまにか、髪の毛は伸びてくるもんやからね…。

追伸!

せやったら、また、そのときはな…。

追伸!

…いや、そんときは、そんときに考えたらええな…。

追伸!

いまは振り返るのは嫌いや。
でも、いつか、振り返ってみて、きみのこぼれるような日差しの笑顔に会えたらいいなと思うてる。

追伸!

確かに、どこにもある様なことやとは思うで。
でも、二人にとって、たしかに、どこにもあらへん、かけがえのない日々やったんやと、ほんま思うてる。

追伸!

ありがとう! ありがとう! ありがとう!

追伸!

ほんま、いままで、おおきに、ありがとう!
最後に、笑顔だけ、同封しとくわな。



さだまさしさんのグレープ時代の名曲です。
シングルとしては、「精霊流し」「無縁坂」に続く売り上げを記録したヒット曲です。
「精霊流し」「無縁坂」のイントロにあるバイオリンに比べて、「追伸」に使われているバイオリンは、哀愁がありながらも、明るく、少しコミカルな感じもします。
でも、やはり、感傷をそそりますけどね。
後半のハーモニーとリフレインあたりが、デュオとしてのグレープらしさが出ていて、優しさがあふれる素敵な歌でしたね。

(初稿2004.9 未改訂)


追伸

作詞/作曲 さだまさし

撫子の花が咲きました
芙蓉の花は枯れたけど
あなたがとても無口になった秋に
こわくて私聞けませんでした
あなたの指の白い包帯
上手に巻いてくれたのは誰でしょう

風に頼んでも無駄ですか
振り返るのは嫌いですか
どこにもある様な事ですか
私 髪を切りました

たとえば今日のあなたのこと
他の人と楽しそうに笑ってた
あなたの声が眩しくて耳をふさぎました
下手なくせにあなたの為に
編みかけた白いベスト
やはり夢でした ほどき始めましょう

あなたに借りた鴎外も
読み終えていないのに
最後のわがままですあなたの
肩巾教えて下さい

風に頼んでも無駄ですか
振り返るのは嫌いですか
どこにもある様な事ですか
私 髪を切りました

1975年(昭和50年)
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