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「ほおずき」―さだまさし

   いくつかの水たまりを残して
   梅雨が駆け抜けてしまえば

いつまでも降りやまぬ、梅雨の長雨…。
ぽつぽつと、あるいは、しとしとと、紡ぐように降り続く雨…。
そして、ときには、車軸を流したような、どしゃ降りの雨…。
こころまで濡れてしまいそうな雨…。

しかし、やがて、季節は移ろい、いくつかの水たまりを残して、梅雨が明けていきます。
明けない夜が無いように、梅雨もいつかは明けるのです。

   しめった風の背中越しに
   きみの好きな夏が来ます

梅雨明け間際に吹き抜ける風は、ややしめったような風…。
水たまりが消えてしまうのと、降り続いた雨の記憶が薄れるのと、どちらが早いのでしょうか。
いずれにしても、照りつける日差しは、確かにもう夏。

   あの日きみにせがまれて
   でかけた小さなお祭り

女性ってお祭りが好きなんでしょうか。
もちろん、統計数値があるわけではなく、単に、なんか、昔から、せがまれてお祭りにでかけたことが多かったなぁ〜という、数少ない私的な体験から思うだけのことですが。(笑)
でも、あるいはジェンダー(歴史的・文化的・社会的に形成される男女の差異)と言ったこともあるのかも知れません。

梅雨明けの頃の七月十日には、東京浅草の浅草寺(せんそうじ)の四万六千日の縁日、そこで「ほおずき市」が開催されます。
浅草寺は、浅草の賑やかな界隈の大きなお寺で、またテレビ中継などで見る「ほおずき市」は、とても「小さなお祭り」のような感じがしません。

調べて見ると、「ほおずき市」は全国各地にあるのですが、東京に絞れば、浅草寺よりも古くからある東京の愛宕神社の「ほおずき市」が、由来や規模から言って、この歌の「小さなお祭り」に当てはまるような気がします。
それが、どないしたんや…って思いもありますが。(笑)

   綿菓子の味 アセチレンの光
   きみは赤いほおずきを買った

甘いお菓子が子供のあこがれだった時代、砂糖が貴重品だった時代、そう…わずか半世紀前の日本はそんな時代でした。
でも、綿菓子は今でも人気があるのか、キャラクターの絵袋入りで、祭りや縁日で売られています。

アセチレン灯は、カーバイド(炭化カルシウム)に水を注ぐと生じるアセチレンガスを燃料とした照明用の灯火で、露天の夜店などで活躍しましたが、電気照明にとってかわられて、アセチレンの光は、もう、ほとんど見かけることはありません。

   走馬灯に照らされて
   僕はほおずきをかんで
   風鈴の唄に合わせてきみが
   団扇で そっと風をくれた

ほおずきは、種を取り出した実を口に含み、音を鳴らしたり、実を吹き飛ばしたりして遊んだりするもの…らしいのですが、ぼくは、残念ながら、そうした遊びをした記憶がありません。
記憶がないから、思い出が走馬灯にように駆け巡りません。(笑)
もっとも団扇で風をくれる人もいなかったのですが。(笑)

ほおずきには「鬼灯」という字が当てられ、地域によって異なりますが、お盆の仏壇の精霊迎えに、ほおずきのような形をした提灯が飾られます。しかし、このことからでしょうか、ほおずきを庭に植えるとその家に病人や死者が出る、と忌み嫌われます。

また、ほおずきは古くは利尿剤、解熱剤、鎮静剤として用いられてきた薬用植物で、煎じて飲むと、子どもの虫封じ、女性の癪に効用があるとされていますが、女性の癇癪(ヒステリー)に効くかは、…知〜らない。(笑)

   僕の肩越しに
   子供の花火をみつめ
   きみは小さくつぶやいた
   消えない花火があるなら欲しいと

消えない花火があるならほしいけど、でも、ほんとに、そんな花火があったら、消防士さんは大変やろうなぁ〜なんて、人の仕事の苦労がわかる年頃になっちゃいました。(笑)

でも、消えるものだから、恋も花火もイトオシイ…のでしょうね。

   たわむれに刻んだ
   二人のたけくらべ
   背のびして 背のびして
   つま先立っても とどかない

さだまさしさんには、明治の文豪、永井荷風の作品と同じ題名の「つゆのあとさき」という歌もあるのですが、同じく、明治の文豪で、樋口一葉という女流作家がいます。
そして、樋口一葉と言えば、「たけくらべ」
「たわむれに刻んだ二人のたけくらべ」…です。

「たけくらべ」は、東京の遊郭、吉原の花魁の妹で、美人で勝ち気でおきゃんな美登利(みどり)と、竜華寺の跡取りの信如(しんにょ)の浅き夢のごとくの初恋ラブストーリです。

「たけくらべ」には、祭りの夜のことや、信如が下駄の鼻緒を切り、美登利が友禅縮緬の切れ端を渡そうとする場面もあり、この「ほおずき」の歌詞のイメージとオーバーラップする場面があります。
この物語は、結局、僧侶となる信如と、花街の美登利の幼なじみの淡い初恋は、想いさえも告げられぬままに、それぞれの道を歩むことで終わります。

樋口一葉、23歳の時の作品です。
一葉、本名、奈津(夏子とも名乗ってた)は、この「たけくらべ」を発表した翌年、24歳で没します。

「きみの好きな夏が来ます」…さださんは時空を超えて、奈津に憧れて、この歌を作ったのかもしれませんね。

   あの日のお祭りに
   今夜は一人で行ったよ
   想い出のほかに ひろったものは
   誰かが忘れた ほおずきをひとつ

(初稿2000.6 改訂2002.7)


ほおずき

作詞/作曲 さだまさし

 いくつかの水たまりを残して
 梅雨が駆け抜けてしまえば
 しめった風の背中越しに
 きみの好きな夏が来ます

 あの日きみにせがまれて
 でかけた小さなお祭り
 綿菓子の味 アセチレンの光
 きみは赤いほおずきを買った

 ため息でまわした ひとつのかざぐるま
 とまらずに とまらずに
 まわれと二人 祈っていたのに

 きみの下駄の鼻緒が切れた
 ひとごみに まかれて 切れた
 僕の肩にすがり うつむいたきみは
 おびえるように 涙をこぼした


 走馬灯に照らされて
 僕はほおずきをかんで
 風鈴の唄に合わせてきみが
 団扇で そっと風をくれた

 僕の肩越しに
 子供の花火をみつめ
 きみは小さくつぶやいた
 消えない花火があるなら欲しいと

 たわむれに刻んだ
 二人のたけくらべ
 背のびして 背のびして
 つま先立っても とどかない

 あの日のお祭りに
 今夜は一人で行ったよ
 想い出のほかに ひろったものは
 誰かが忘れた ほおずきをひとつ

1975年(昭和50年)
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