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二丁目の交差点から17軒目で
時々走って2分と15秒
平均112.3歩目に我等の
コーヒー・ベーカリー『安眠』がある
すんまへんな、ちょっと、もの尋ねまっけど、二丁目の交差点ってどこか、知ってはりまっか。
えっ、うん、せやねん、わしなぁ、わけありで、二丁目の交差点、ちゅうのを探してまんねんけどな。
いやいや、わけありや、いうても、そんな、たいそうなもんや、あらへんねんけどね。
二丁目の交差点ってゆうたら、大阪やったら、たぶん、一丁目と三丁目の真ん中くらいに、あるんちゃうんかなぁと、見当つけてきたんやけど、あらへんねん。
ひょっとしたら、ここいらのこっちゃさかい、四丁目の次に二丁目とか、七丁目の先っぽに、二丁目がついてる…、ちゅう、そんなアホなことはないわな。
えっ、小さな駅前の交差点のことちゃうかってか。
国道沿いを西から東に入ったところやてか。
そうでっか。
せやけど、西から東へ走るぅ、走るぅって言われても、いや、あんさんのふるさとでも、わしのふるさとの街やないんやから、方位がわからんがな。
大きくひとつ溜め息つくしかあらへんのかなぁ。
えっ、ひょっとしたら、銀杏黄葉(いちょうもみじ)の舞い散る交差点のことと、ちゃうのかってか。
ほう、でも御堂筋のことやったら知っとるけど、ここらへんの街路樹が、どうなっとんのか知らんわ。
まして、別れる約束の次の交差点やって、いきなり、いわれても、わしには、なんのことやら、さっぱり分からへんがな。
そこ、信号があるんかいな。
ほんで、待ちきれないほど、長い信号かいな。
大阪やったら、あと何秒待ち、って出よるで。
もっとも、車通らんかったら、みな渡ってるけどな。
せや、ここいらあたりでも、あまり信号待たせんようにするために、歩行者が斜めに渡れる、スクランブル交差点ちゅうやつはあるんやろ。
せやせや、時の流れという名の鳩が舞い下りてついばんでるところらしいで。
えっ、ギンナンの実をついばんでるんかってか。
そんなアホな、ちゃいまんがな。
使い棄てられた愛をついばんどるんや。
そんなもの食って、腹こわせへんかってか。
そら、鳩に聞かんと、わからへんがな。
なんぎな人やなあ。
ともかく、どれが二丁目の交差点なんやねん。
えっ、このあたり詳しくないから、知らへんってか。
そら、どんならんな、それを先にいうてんか。
べらべらと、いらんこと、ようしゃべってからに…って、それはわしの方かいな、すんまへんな。
まっ、ええわ、おおきにありがとさん。
それにしても、えろう疲れましたわ。
どっか、休むとこ知りまへんか。
えっ、ここから、17軒目さきに、コーヒーベーカリー「安眠」という店あるから、そこで休んで、マスターに、二丁目の交差点のこと、聞いたらどうやってか。
えっ、あっ、あっ、あっ、ほうかいな。
ここからちゅうことは…、ここが二丁目…。
ふぅ…ほんま、親切に、おおきにな。
お人好しのマスター三十六
独身の理由は
引っ込み思案で照れ屋でまぬけの
複雑な性格による
どんならん、まっ、ええわ、…ここやな。
おるおる、あれがマスターかいな。
三十六って聞いたけど、なんか老けて見えるなぁ。
白いベーカリー帽子を脱いだら、もっと、いっとるように、見えるかもしれんなぁ。
髪の毛の生え際がとくに不吉やしな。
仕事にハゲみ過ぎたんかもしれんなぁ。
これやったら、大阪のマスターの方が、ちょっと、若う見えんのんちゃうか。
まっ、大阪のマスターは、アホやからな。
アホは若うみえるさかいなぁ。
でも、人が良さそうなとこなんかは一緒かな。
まあ、アホとは紙一重なんやけどな。
せやけど、客来てんのに、目伏せながら、会釈だけして、どうすんのんや。
道頓堀の人形でも、眉くらい動かしよるで。
おまけに、奥に引っ込みよったがな。
どないなってんねん。
しゃあないな、カウンター席にでも座っとこか。
あっ、出てきよった、出てきよった。
黒いカバン持ってきよったで。
えっ、今月はいくらですかってか。
なっ、なんや。
えっ、豆? コーヒー豆の代金?
わしは、集金に来たんちゃうで、客やがな。
うん、せや、客やで、客や…って、いうてるまに、また奥に引っ込みよったがな。
それも、黒いカバン置き忘れてるがな。
コーヒーは確かにうまい
でも俺等男には
理解出来ないが娘等はここの
かぼちゃパイが美味しいという
コーヒー運んでくるまでに、時々走って、12分と15秒もかかってるがな。
しかしネジも巻かんと、よう走ってる、電池式か。
まあ、オーブンの焼け具合も見なあかんし、店のレジもやらなあかんから、しゃあないか。
しかし、コーヒーは確かにうまいな。
みなが、いうだけのことはあるわな。
ホットとアメリカンしかないのも、気にいったわ。
単品でブルマンとかキリマンジャロとかいうて、高いコーヒー出す店、最近、多いもんな。
ブルマンなんて、女子学生と組み合わせたら、なんか、ごっつう、危ない感じするで、…って、なんのこっちゃわからん人は、わからんでええけどな。
キリマンジャロなんて、風に向かって立つライオンにでも、飲ませてたらええちゅうねん…って、なんのこっちゃわからん人は、わからんでええけどな。
しかし、喫茶店のマスターたるものは、ここみたいに、うちは、このブレンドの味で勝負してますって、そんなこだわり、もってほしいもんやな。
まっ、こだわりすぎのマスターちゅうのも、なんぎなもんやけどな。
せやけど、かぼちゃパイ、えらい遅いな。
かぼちゃ、畑まで採りに行ってるんちゃうやろな。
まあ売り切れて、いま焼いてるとこらしいから、しゃあないけど、新発売って書いてある、ローズパイにしたら良かったやろか。
せやけど、江戸時代から、芋蛸南瓜(いもたこなんきん)、芝居蒟蒻芋南瓜(しばいこんにゃくいもかぼちゃ) なんていうけど、なんで、おなごはみな、かぼちゃが好きなんやろな。
そこの五人連れの女子高生のグループも、あっちの四人組のおばちゃん連中も、みな、パンプキン・パイやんか。
で、おっちゃんのわしも頼んでもうたがな。
ミス・パンプキンのいつもの座席は
窓際のゴムの木の向う側
背は高からず 低からず 容姿端麗
彼女は僕等の憧れの的
そういうたら、ミス・パンプキン、っていうネーミングは、ほんまのとこ、どうなんやろねぇ。
訳したら、ミス・かぼちゃ、やもんな。
どう考えても、かぼちゃから、色白の細面の小股の切れ上がった女性という感じせえへんもんな。
あっちの席で、さっきから、シナモン・ティーのこと、シナモンチー、シナモンチーいうて、わぁわぁいうてる、おばちゃん連中みたいな感じするわな。
まっ、冬至にかぼちゃ食べると風邪引かんって、昔からよういうし、まあ、ビタミンとかカロチンとか、食物繊維が多く含まれてるさかい、かぼちゃって、身体にはええんやろな。
おなごの方が、長生きするわけやで。
そういうたら、アメリカのハロウィンの魔物を追い払うために作る、かぼちゃちょうちん、魔よけやいうても、あれもよう見たら、えげつない顔してるもんなぁ。
あれやったら、あっちのおばちゃん連中の方が、まだ可愛く見えるんちゃうか。
こりゃ、かぼちゃに失礼か、いや、おばちゃんに失礼か、まっ、似たり寄ったりやからええな。
ここだけの話にしといたろ。
でも、かぼちゃちょうちんに、ピンクのリボンでもつけたのが、ミス・パンプキンやったら、どないしたらええねんって、べつにわしが困らんでもええんやな。
実は不敵にもマスターが
このマドンナに恋をした
まぬけないじらしさ見たさに
授業を抜け出して来てるのに
ちっともらちがあかないマスターは
照れ屋でまぬけだから
たった一言かけた言葉が
事もあろうに「毎度ありがとう」
せやけど、蓼食う虫も好き好きやし、ときには大胆不敵も、大体素敵で、ええんちゃうか。
それにしても、まぬけ、まぬけ、まぬけって、三度も若いもんから、いわれとるけど、ほんまに、ここのマスター、まぬけなんやろか。
パンプキン・パイに、かぼちゃ入れ忘れて作ったとか、シナモン・ティーに、シナモンスティックのかわりに、ポール・サイモンつけてしもうたとか。
うーん、我ながら、このギャグもひとつやな。
今後のために、反省文、日記に書いとこか。
シナモンの枝で書いてみたろか。
シナモンだけに、これがほんまのニッキやな。
日頃のお世話に感謝をこめて
僕等はまたまた授業抜け出して
シナモンの枝でガラスにラブ・レター
ミス・パンプキンに差し出した
ところが急に店を飛び出した彼女の
背中とマスターの半ベソ交互に見くらべ
僕等は立場失くして
ひたすらうろたえた
まあ、いつも思うねんけど、小さな親切、大きなお世話っていうの、ほんまやね。
日頃のお世話に感謝をこめるんやったら、大人しくしてたらええのに、このいっちょかみ。
人の恋路については、口出し、手出しはするもんやあらへんねんで。
きっと、馬に蹴られるで。
ついでに鹿にも蹴られて、ほんま馬鹿みるで。
まあ、口出し、手出し、してほしい人もおるんやろうけど、そんなやつの色恋沙汰はパチモンやからな。
秘めたるもんや、恋愛ちゅうもんはな。
そんなことやっとるヒマあったら、モット本業に精だせっていうんやって、いいながら、わしもさぼって、ここまで来て、コーヒー飲どるんやけどな。
それからしばらくしてマスターは
お陰さまで嫁さんをもらった
相手がミス・パンプキンかどうかは
ああいう性格だから白状しなかった
まあ、三十六やから、早いとこ子ども作らんとな。
あとで、しんどいで。
大阪のマスターもいうとった。
でも、まあ子どもが小さいと、気だけは若くなるそうやけどな。
あっちのおばちゃん連中より、こっちの女子高生のグループの方が、きっと気はあうはずやで。
まっ、男やったら、誰でもかもしれんけどな。
問題なんは、嫁さんの方やろな。
ミス・パンプキンが、ミセス・パンプキンになるんやろ。
なんか、いきなりどーんと尻に敷かれそうやな。
まっ、その方が家庭円満、商売繁盛やろ。
商売繁盛で、パイもってこいってか。
わしは、えべっさんか。
ただそれから僕等の待遇が
良くなった事と
僕等の追試が決まった事の
他には変わりは無い
2代目ミス・パンプキンは
なかなか現れないけれど
此頃すこうし僕等にもかぼちゃパイの
味が解ってきたところ
おっと、男子高校生四人が入ってきたな。
部活の帰りやろか、なんか汗くさいな。
いっちょまえに、おとこくさくなってくる頃やな。
そこの女子高校生グループの連れかと思ったら、ちゃうとこに、座わりよったで。
ほんで、お互いチラチラ見てるやんけ。
おお、意識しとるな。
ほんま色気づくのだけは、きょうび、早いな。
ほんで5対4か、フィーリングカップルやりにくかったら、おっちゃん数合わせで入ったろか。
うーん、やっぱ、いらんやろな。
パンプキン・パイとシナモン・ティーに
バラの形の角砂糖ふたつ
シナモンの枝でガラスに三度
恋しい人の名を書けば
あれれ、いまは想像もできんけど、そんなまじないで、愛が叶えられると信じてたような、昔の娘はんが近寄ってきたがな。
近くでみると、えらい迫力や。
えっ、なんですか、うん、カメラのシャッターを、カメラのシャッターを押してほしいって。
記念撮影かいな。
よっしゃ、わかった。
ならんでならんで。
けど、広がらんと、もう少し、ひっついてんか。
はみ出してるで。
いやいや、お腹のこととちゃうやん。
お腹ひっこめてどうすんのよ。
そんなに気にしてるなら、パンプキン・パイ、あんなに食わなきゃいいのに。
せやな、せっかくやから、ここのマスターも入ってもらったらどないやろね。
マスター、すんまへんな。
そうそう、そのままでええから、こっちへきたって。
あっ、ベーカリー帽は脱がん方がええわ。
フラッシュ光ったら、照り返しになるやろ。
ほんでいま持ってきた、パンプキン・パイ、胸元に。
ええ感じや、ほな、いきまっせ。
みなさん、ほら、ハイ、バタ〜〜〜。
さすがやね、オヤジのこんな古いギャグに、よう笑ってくれはったわ。
みなさん、写真に、笑顔同封できましたで。
えっ、おたくもさだまさしファンちゃいますのってか。
いや、まぁ…。
えっ、いっしょに、写真どうですっ、てか。
う〜ん、いや、遠慮させてもらいまっさ。
さだまさしは、好きやねんけどな…、だからといって、べつにさだまさしファンのおばちゃんたちと写ってもなぁ…、それにわしにも選ぶ権利ちゅうもんが…。
いや、いや、ひとりごとやから気にせんといて、もう、じゅうぶん、たんのうしたから、おおきに、ありがとさん。
まっ、このゆかりの場所で、心でシャッター押して、心の中の絵はがきにしときましたさかい。
さっ、ともかく、パンプキン・パイいただきまっさ。
やはり、ローズ・パスよりも、パンプキン・パイや。
ほんで、シナモン・ティー。
パンプキンのほんのりとした上品な甘さに対して、シナモンの爽やかな清涼感が、妙にあいまんな。
こら、ほんま、うまいがな。
ちょっと、マスター、パンプキン・パイとシナモン・ティー、おかわりしてもええか。
ねぇ、マスター、ねぇ、マスター、早く〜って、なんか、これは、コーヒー・ベーカリーやのうて、レストランでいう、セリフやったな。
なぁ、マスター、マスター。
なぁ…、あれれ、マスター、居眠りしてるやん。
マスター、マスター。
なんだ、寝ちまったんですか…って、また、歌がちがってきてるやんか。
ほんま、まぬけやなぁ。
でも、まあ、それがええねんやろうけどな。
この曲は、1979年(昭和54年)にリリースされた「夢供養」というアルバムに入っています。
このアルバムは、タイトル名からして、イカにもタコにも、さだまさし!って、感じですが、「風の篝火」「まほろば」などが収録されており、スローモーションでじっくりと落ち込みたい時などに、おすすめです。(笑)
しかし、そんな暗さのアルバムの中で、この「パンプキン・パイとシナモン・ティー」と「木根川橋」あたりは、ほのぼのと明るくて、いわば救援歌です。(笑)
なお、シナモン(Cinnamon)とは、セイロン紅茶で有名なスリランカ原産のクスノキ科の香木で、それから採れる香料は、コーヒーや紅茶に入れたり、アップルパイやケーキの香り付けとして使われています。
和名では肉桂、ニッキとも呼ばれ、ドロップのニッキ飴とか、京都の和菓子「八つ橋」にも使われ、考えてみれば、結構、なじみ深い味ですね。
歌詞では、シナモンの枝となっていますが、多分、樹皮を管状に巻いて棒状にしたシナモンスティックのことで、これを粉にしてパウダー状にしたのが、シナモンパウダー、最近はスーパーなどでも見かけますね。
一方、バラの形の角砂糖、最近はスティックシュガーに代わってしまって、角砂糖そのものも、あまり見かけませんが、以前は、結婚や出産などのお祝い返し品などで、よく貰いましたね。
喫茶店でもよく出されていて、バラの形の分だけ少量になるのか、二つじゃ甘さが足らないから、使わないなら一個ちょうだいね、なんて、ブラックで飲んでいたぼくは、よく女の子から言われてあげたことがあったけなぁ…と、遠い青春の日々。(笑)
ちなみに、1982年の第23回ポプコンに「待つわ」でグランプリをとった岡村孝子さんと加藤晴子さんの「女性デュオ、「あみん」のグループ名は、この「パンプキン・パイとシナモン・ティー」の歌詞にある「安眠」から名付けたそうです。
(初稿2005.11 未改訂) |