青春音楽館トップページへ

「ルージュの伝言」―荒井由実


   あのひとのママに会うために
   今ひとり 列車に乗ったの
   たそがれせまる街並や車の流れ
   横目で追い越して

えっ、だんなはんの母親に会いに行くんか。
言いつけに行くちゅうことかいな。
彼もえらいことになったな。
まっ、自業自得やから、それもしゃあないけどな。

せやけど、あくまで、お姑はんやし、だんなはんを産んだ母親や、ちゅうのを忘れたら、あかんで。

彼への愚痴はともかくとしても、間違(まちご)うても、悪口を言いまくって、親の顔みたいわ、なんて言うたら、収まるものも納まらへんようになるさかいな。

   あのひとはもう気づくころよ
   バスルームに ルージュの伝言
   浮気な恋をはやく
   あきらめないかぎり
   家には帰らない

えっ、なんやて、バスルームに、口紅で伝言を書いてきたんやてか。

バスルームやのうてダイニングに書いてきたら、これがほんまのダイニングメッセージやいうて…。

うん?、そうや、ダイイングメッセージのギャグのつもりやったけど、それが、なにか?。

まっ、そんな開き直りのオヤジギャグの出具合はおいといて、ともかく、バスルームからは、愛をこめなあかんもんやで。

     お湯にもぐって あたし泣いたの
     ひとり夜更けの バスルーム
     あんな浮気な 男なんてさ
     あたしの方から 別れてやるわよ
         「バスルームから愛をこめて」―山下久美子

腹たつからっていうのも、わかるけどな、せやから言うて、口紅、もったいないことするんやなぁ。

えっ、せやから、コンビニで買(こ)うた、安もんの口紅を使(つこ)うた、ってか。
しっかりしとるわ。

ほんで、だんなからプレゼントして貰(もろ)た、ブランドの口紅は、いまでも大事にとってるってか。

あほ!、あほやな〜、男がおなごに口紅プレゼントするちゅうのはやな、その口紅を塗った口で、毎日、少しずつ返してぇな、ってことなんや、…って、言うてて、おっちゃん恥ずかしいわ。

せやけど、彼、浮気しよるようには、見えんけどな。
相手は、どんな娘(こ)か、知ってるんか。

えっ、女やない、て…か…。

あちゃ〜、男かいな、おっちゃんはその趣味ないからよう分からんねんけど、相手が男やったらタチ悪いっていうからな…って。

えっ、男でもないってか、せやったら、オカマとかニューハーフとかかいな…、うん、女子より綺麗な子もいるからな…、えっ、違(ちゃ)う、違うってか。

なに、彼、今ごろになって、仲間とロックバンドを組んで、休みには、いつも練習に明け暮れてるってか。
ほんで、ほったらかしにされてるってか。

う〜む、昔から、ゴルフ・ウィドウ(golf widow)なんて、言葉もあってな、夫が嫁さんほったらかして、ゴルフなんかの趣味に熱中してしまうちゅうことはあるわな。

     ロックンロール・ウィドウ
     ロックンロール・ウィドウ
     いい加減にして
     私あなたのママじゃない
        「ロックンロール・ウィドウ」−山口百恵

せやけど、それは浮気とは言わんのんちゃう。
えっ、いやいや、かばってるわけやないんやで。

うん、いやいや、そりゃそうやけどな、浮気ちゅうのは…、いや確かに、気持ちがそこに移ってるいうたらや、浮気なんかも知れんけどな…。

いや、そりゃ、考えてみいや、別にワイシャツに口紅つけて、帰ってきたわけやないんやし、見慣れんパンツ穿いて帰ってきたわけやないしな…。

いや、そんな意味でいうたんやないんけどな。
おいおい、おっちゃんの体験ばなしとも違うで。

いや、そんな剣幕でまくしたてんでも…、なんが、わしが嫁さんに叱られてるみたいやな。

   不安な気持を残したまま
   街はDing−Dong
   遠ざかってゆくわ
   明日の朝ママから電話で
   しかってもらうわ My Daring!

まあ、ちょっと落ち着きぃな。
でも、不安な気持ちも分からんでもない。

街がディンドンか、ドンドンか分からんけど、遠ざかってゆくのを見たら、彼との距離もなん遠ざかってゆくような気もしたやろ。

でも、それでも、My Daring!って、いまも思ってるんやろ。

ダーリン、好きだっちゃって、言うんやろ…って、え、あんまし似合わん言葉は使わん方がええってか…、ハイ、おおきにな。

     あんまりソワソワしないで
     あなたは いつでもキョロキョロ
     よそ見をするのはやめてよ
     私が誰よりいちばん
          「ラムのラブソング」−TVアニメ「うる星やつら」

そりゃ、よそ見いうたら、そうかも知れんな。

でも、彼がな、ダーリンがな、音楽に興味も持たんで、エレキーも弾かんで、ドラムも叩かんで、ごく普通の男やったら、魅力を感じんかったんちゃうかな。

     ごく普通のふたりは
     ごく普通の恋をし
     ごく普通の結婚をしました
     でも ただひとつ違っていたのは
     奥さまは 魔女だったのです
        「奥さまは魔女」−オープニングナレーション

平々凡々とした、ごく普通の暮らしのなかで、ささやかな夢を追うのもええんちゃうか。

仕事はきっちりしてるんやったら、もっと大きな目で、ダーリンを見てあげたらどないやろか。

     ダーリン ダーリン
     いろんな角度から君を見てきた
     共に生きられない日が 来たって
     どうせ 愛してしまうと 思うんだ
            「しるし」−Mr.Children

いつも一緒にいることが、愛していることの、しるしってことでもないやろと思うで。

そりゃ、まあ、いつもそばにいてほしいって思うことは、分かるけどな。

それは、彼も分かってることやろうけどな。

でも、いつも、横に立っていて、べったりとしてぃな、あかんいうのも、どなぃやろかと思うで。

     So, darling darling
     Stand by me
     Oh stand by me
     Oh stand
     Stand by me
     Stand by me
              「Stand by Me」−Ben.E.King

   あのひとはあわててるころよ
   バスルームに ルージュの伝言
   てあたりしだい友達に
   たずねるかしら
   私の行く先を

そりゃ、あわてるやろう。
それに、だんなの実家に行ってるなんて、夢にも思わんやろうしな。

まあ、彼も、眠れぬ夜を過ごしてるやろうから、明日の朝に、すぐ電話してもろうたらええがな。

ほんで、お母はんに、電話してもろうた頃に、家に帰れるように、始発列車で帰ったらええやん。

昇る朝日を見ながら帰るのもええもんやで。
そう、朝日のような色の口紅つけてな。

えっ、おっちゃん、朝帰りしたことあるんかってか。
いや、まあ、そりゃ、若いときにはな。

えっ、それで、なにしてたんって…いや、そら、なに、まあ、いろいろあったけどなぁ。
おっと、これ嫁はんには内緒にしてや。

   しかってもらうわ My Daring!

叱られるんかいな、しゃあないな。

けど、なんか、元気出てきたみたいやな。
そうそう、それでええんや。

     おちこんだりもしたけれど
     私はげんきです。
           「魔女の宅急便」−キャッチコピー(糸井重里) 

せやで、元気と勇気ちゅうもんは、使えば使うほどに増えてくるもんやって、どこぞのだれかも、いうとったわ。

ここは、ほれ、奥さまは魔女、ともいうから、鼻ぴくぴく動かすか、バトンでも振るか、コンパクトでも覗いて、呪文でも唱えたらええやん。

マハリク マヤコン ゲンキ&ユウキ シャランラー、マエムキニなーれなんて、言うてぇな。

おっと、彼には、呪文やのうて、おっちゃんのメッセージを伝えてや。

バンドを組んで、やるかぎりはな、メジャーデビューを目指すくらいに、頑張りやってな。

君もそのバンドの横で、踊子になって、派手なギャザかフレアのスカート穿いて、ロックンロールして踊ったったら、ええやん、どや。

ところで、彼の名前、ジョニィとは違(ちゃ)うやろな。



この曲「ルージュの伝言」は、荒井由実さんの5枚目のシングルで、3枚目のアルバム「COBALT HOUR」にも収録されています。

いわゆる1960年代のロックンロールの曲調で、のちに、ユーミンのだんなさんとなる松任谷正隆さんの編曲センスと、山下達郎さんらの ドゥーワップのコーラスアレンジが見事にマッチしています。

1989年(平成元年)スタジオジブリの宮崎駿監督作品の映画アニメ「魔女の宅急便」のオープニングテーマソングとしても、リバイバルヒットしました。
ちなみに、「魔女の宅急便」のエンディング曲も、ユーミンの「やさしさに包まれたなら」です。

(初稿2007.9 未改訂)


ルージュの伝言

作詞/作曲 荒井由実

あのひとのママに会うために
今ひとり 列車に乗ったの
たそがれせまる街並や車の流れ
横目で追い越して
あのひとはもう気づくころよ
バスルームに ルージュの伝言
浮気な恋をはやく
あきらめないかぎり
家には帰らない
不安な気持を残したまま
街はDing−Dong
遠ざかってゆくわ
明日の朝ママから電話で
しかってもらうわ My Daring!

あのひとはあわててるころよ
バスルームに ルージュの伝言
てあたりしだい友達に
たずねるかしら
私の行く先を
不安な気持を残したまま
街は Ding−Dong
遠ざかってゆくわ
明日の朝ママから電話で
しかってもらうわ My Daring!
しかってもらうわ My Daring!

1975年(昭和50年)
「青春音楽館」トップページへ