青春音楽館トップページへ

「白い椅子の陰」―N.S.P

てててて渋谷公園通りの途中の喫茶店 「時間割」

喫茶店「時間割」 変わりゆく思い出の地

Blog080105a


昨年11月、ふきのとんぼさん、と
いう方から、1枚のEPレコードを
お預かりした。

神崎みゆき「公園通りの情景」。この歌手、曲を
覚えている方はどれほどいらっしゃるのだろうか。
私はこの時初めて聞いたお名前、曲名だった。
「こうさき・みゆき」さんと読み、実は男性
なのだそうだ。パートナーはもちろん、この方の
ことは覚えていた。

この曲はご自身のオリジナルでもあり、また、
とんぼちゃんに提供なさってもいる。このEPの
ジャケット写真は、渋谷・公園通りの「時間割」と
いう喫茶店の前で撮影されている。今はこの
写真とは異なり、ビルの地下に入っているという。

私は、ふきのとんぼさんから、「自分がなかなか
行けないので、このEPを、喫茶店のマスターに
差し上げてきてほしい」というご用を承った。
以前1枚しか入手できなかったEP、偶然2枚目が
手に入ったので、1枚差し上げたい、とおっしゃる。

その時、神崎さんバージョン、とんぼちゃん
バージョンと、このお店の風景を歌った、NSPの
「白い椅子の陰」、3曲の入ったCD-Rもお預かりした。

というわけで、昨年の暮れ、渋谷に出かけたついでに
差し上げにいった。渋谷駅からなら、公園通りの
上り坂を歩き、たばこと塩の博物館を過ぎたあたりの、
ビルの1階に看板がある。看板には、こんな言葉がある。
「他人に言うなよ!二人の時間割をな…」

Blog080105b


らせん階段を下り、
店内へ。地下と
いうのに、入り口は
とても明るく、太陽の光が
あたたかく降り注いでいる。

「いらっしゃいませ」
品のある、蝶ネクタイをなさったご年配の
マスターが、出迎えて下さる。

ピザトーストとコーヒーを注文する。昼下がりの
店内は、お客も少なく、渋谷の喧騒の中で、
タイムトリップし、異空間に迷い込んだ気がする。
しばし待つと、昔ながらのトーストとコーヒーが
出てくる。静けさとともに、トーストとコーヒーを
おいしくいただいた。

いただいてから、
「マスター、実は…」
と、EPを差し出し、話を切り出す。ふきのとんぼさんは
以前お店にいらしたことがあるようで、お話をするうち、
「あぁ、たぶんあの方だ…」
マスターはお気づきになったようだった。
(ふきのとんぼさんから、後日、マスターからお礼の
メールをいただいた、というご連絡があった)

Blog080105c


お店のカードを
ちょうだいする。
1969年に開店し、1981年まで
この絵のような建物だったこと。
その後ビルへの立て替えに
伴い、今のような形での営業に
なったこと。

お店の奥に案内して下さり、壁の昔の
写真とともに、「白い椅子の陰」は
どの辺だったのか、「僕らの音楽」(フジTV系)で
NSPの皆さんが取材にいらしたこと…
矢継ぎ早に、懐かしそうに話をして下さる。

マスターは、神崎さんのEPジャケット写真を
感慨深そうに眺め、こうおっしゃった。
「パルコができた頃、この辺りのテーマソングの
ような曲があるよ、って、パルコの人に教えて
もらいましてね…」

言葉がなかった。パルコのうち、PartUは、昨年
12月末で閉館する、というニュースを私は聞いて
いたのだから。建築後30年が過ぎ、耐震化工事の
目処も立たないことから、閉館するのだという。
そんなことを思い出しながら、マスターに質問する。

「お正月休み、なさいますよね。来年はいつから
お店を開けられますか」
「1/7頃から…でも、もう疲れたのでね、来年店を
閉めようと思っています」

一瞬、どう返そうか言葉に詰まる。
「…わかりました、じゃあ、来年の早いうちにまた
参ります」
お礼を申し上げ、お勘定も済ませ、らせん階段を登った。

公園通りの坂を下りながら、さまざまの思いが
胸をよぎり、あふれ出しそうになり、誰かれ
構わず話しかけたくなる。

(あぁ、パートナーの中学・高校時代の懐かしい
風景が、こうして変わっていく…公園通りでさえ、
もう変わっていってしまう!)
公園通りを毎日のように通り、ライブを見に、
レコードを買いに…彼の青春の日常が、ここに
確かにあった。

その頃幼かった私の人生を思っても、30年の時が
過ぎている現実の意味の重さを実感する。そして、
「東京オリンピックを境に激変した、渋谷界隈の
風景」の、オリンピック後のものでさえ、もう
消えていこうとしている事実を突きつけられる。

その日の夜、帰宅したパートナーに、堰を
切ったように話をしたのは言うまでもない。

この記事をご覧になって、1970年代の公園通りの
風景を懐かしく思い出した方。ぜひ、早いうちに、
時間割に足を運んでいただきたい。

【時間割】渋谷区神南1-15-8 03-3464-7014

【追記】
コメントとTBをいただいたsanae様から、
「1/31で閉店」というお知らせを
いただきました。

ここに記してお礼申し上げると
ともに、マスターはじめ
お店のご関係者皆さまに、
今までのご経営に
感謝申し上げます。

(初稿1999.9 最終改訂2001.8)


白い椅子の陰

作詞/作曲 天野 滋

ガラス窓の向こうには
ラッシュアワーでバスが行 く
あのバスから降りてくる
君の姿が見えてくる

緑の扉に銀のフチ
坂道の途中のこの茶店
初めていっしょに来た時に
なぜか淋しそうだった

君がすわった白い椅子に
僕の知らない思い出が あるなんて
今はじめて知ったけど
そんな思い出を隠していたなんて
僕の冗談に笑えない
あの時の君が嫌だった

僕の話もうわの空
いつもお しゃべりの 君らし くない
君の心に誰かさんが
いつも住んでいたのでしょう

今までの君との出来事が
とても色あせてしまうじゃ ないか
今はじめて知ったけど
そんな思い出を隠していたなんて
話すこともな くなって
けんかすることも今は無い

1977年(昭和52年)
「青春音楽館」トップページへ